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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

やっと、飯時になって、

「そうそうあの武者修行にも、飯をやれ」

と梅軒は思い出したように、仕事場の土間にまだ草鞋も解かず、鞴の火にあたっている武蔵を見て、女房にいいつけた。

女房もまた、愛想がなく、

「あの衆は、この間も留守に来て、泊って行ったのだに」

「岩公と一緒に寝かせてやれ」

「いつぞやは、鞴のそばに、筵を敷いて寝てもろたのじゃ、今夜もそうしてもろたがいい」

「おい、若いの」

梅軒の向っている炉には、酒が暖めてあった。杯を、土間へ向けて、

「酒をのむか」

「嫌いではありません」

「一杯のめ」

「はい」

武蔵は、土間と部屋のさかいに腰かけ、

「頂戴いたします」

と、杯に礼をして唇へ入れた、酢みたいな地酒だった。

「ご返杯を」

「まあ、それは持っていねえ、おれはこっちの杯で飲むから――時に武者修行」

「はっ」

「幾歳だい、若いようだが」

「明けて、二十二歳を迎えます」

「故郷は」

「美作です」

――というと宍戸梅軒の外れていた眼が、武蔵の全姿をきびしく見直した。

「……さっき、なんとかいったな……名だ……名だ……おめえの名だ」

「宮本武蔵」

「武蔵とは」

「たけぞうと書きまする」

そこへ女房が、汁の椀、漬物、箸と飯茶碗を持って来て、