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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

また直接に敵へ当るまえに、敵の所持している武器を鎖で絡んで奪い飛ばしてしまう利もある。

「こう、左に鎌、右に分銅を持つとする――」

梅軒は、坐ったまま、型をして見せ、

「――来れば、鎌をもって受け、受けたせつなに、敵の面へ、分銅を返す。それも一手」

とまた、構えを違えて、

「こうなる場合――こう敵と自分と間をおいて立つ時は――相手の得物を巻き取るのがこっちの目的、太刀、槍、棒、何へ向ってもそれは出来る」

そんな話をしたりまた分銅の投げ方について、十幾通りの口伝のあることや、それによって、鎖が蛇のからだのように自由な線を描き、鎌と鎖と、こもごもに使って、敵を完全なる錯覚の光線に縛りつけ、敵の防ぎをもって、かえって敵の致命とさせてしまうところに、この武器の玄妙なところがあるなどともいった。

――武蔵は熱心に聞き入っていた。

こういう話を聞く時の彼は、全身を耳にし、全身を知識慾の袋にし、話す者のことばの中に自分を置き切っていた。

鎖と――鎌と――

双つの手。

先の話を聞きながら、彼は彼ひとりの考えをひろげて、

(剣は隻手、人間は両手)

胸の裡でつぶやいていた。