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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「鈴鹿越えか、津の街道へ戻るか、道は二筋しかねえ、まだそう遠くへも行くめえ、追ッてみろ」

「どっちへ」

「鈴鹿のほうへは、おれが行ってみる、てめえたちは、下道へ急げ」

屋内の者と、戸外の者とが固まると、十人ほどの人数だった。中には、鉄砲を抱えている男もある。

風態は、一様でなかった。鉄砲を持っている男は猟師らしいし、野差刀を横たえているのは木樵と見てさしつかえない。その他の者もまず、大体そんな階級であるが、すべてが、宍戸梅軒の顎でうごいているところや、どこか兇猛な眼ざしを備えている点から見て、誰よりも、梅軒その者が第一、決して、凡の百姓鍛冶だけの男とは受け取れなかった。

ふた手になって、

「見つけたら、鉄砲をぶっ放すのだ、それを聞いたら、一所へ駈けて来い」

いきまいて追って行った。

しかし、その迅い足で、半刻も追うと、皆気が抜けてしまったらしい。やがて、がっかりした言葉を投げ合って、ぞろぞろと戻って来た。

親方の梅軒に罵られはしないかと恐れていたことも取り越し苦労に過ぎない。その梅軒がすでに皆より先に帰って、鍛冶小屋の土間に腰かけたまま、ぼんやり俯向いていたからである。