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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「くれる?」

「ただではくれないかも知れぬ。その時にはまた、考えがあるから、おまえは声を出さずに、そこらの藪の中へ沈んでおれ」

城太郎がかくれると、その男は坂の下へすたすたと行ってしまうのだ。あんなことをいって、人を欣ばせておきながら、逃げてしまうのではなかろうか。城太郎は、不安になって、藪の中から首を出した。

坂のうえから人声が聞えてきたので、彼はあわてて首をひっ込めた。――お通の声が耳へひびいて来る。両手をうしろに縛られて、三人の野武士にかこまれながら歩いて来る彼女のすがたも、やがて眼のまえに見えたのだった。

「何をキョロキョロしているのだ、はやく歩け」

「歩かねえかっ」

一人の男が、お通の肩を突いて罵った。お通は坂道を斜めによろめいて、

「わたしの連れをさがしているんです。あの子は、どうしたろ。城太さアン」

「やかましい」

お通の白い素足から血が出ていた。城太郎は、ここにいると呶鳴って飛び出そうと思ったが、その時、先刻の五倍子染の侍が、こんどは編笠をどこかへ拾てて、二十六、七歳かと見える色の浅黒い面ざしに、わき眼もふらない血相をたたえて、

「たいへんだっ――」