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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
お通は、
(何ていう子だろう)
と、城太郎の平気でいるのが、憎らしくなってくる。
「もっと彼方へ行ってみましたか」
「見たよ」
「そこの庚申塚の裏は」
「いない」
「立場茶屋の裏は」
「いないッてば」
城太郎が、うるさくなったようにそういうと、お通は、ふいと顔を横に向けてしまった。
「お通さん、泣いているね」
「……知らない」
「ずいぶん理のわからない人だなあ、お通さんはもっと賢い人かと思ったら、まるで嬰ンぼみたいなところもあるぜ。最初から、嘘だかほんとだか、的にはならないことだったんだろ。それを、独りで決めこんで、武蔵様がいないからって、ベソを掻いているなんて、どうかしてらあ」
一片の同情も持たないように、城太郎はかえってゲラゲラ笑うのだった。
お通は、そこへ坐ってしまいたくなった。急に世の中のすべてのものに光がなくなって、元のような――いや今までにない滅失に心が囚われた。笑っている城太郎の味噌ッ歯が、憎く見えて、腹が立って、こんな子をなんで自分が連れてあるいているのか、捨てられるものなら捨てて、たった独りぼっちで、泣いて歩いていたほうが遥かにましだと思ったりする。