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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

朱実にはそれが、たのもしき人にみえ、この人ならもう何をいっても安心と思いこんで、

「おじさん、……わたし、死んでしまいたい、死んでしまいたい」

彼の膝へ、泣き顔を当ててもがくと、丹左は、あらぬ心地に、すこし当惑顔にさえなって、

「泣くな、泣くな、おまえが心からゆるしたわけではないから、おまえの心までは決して、けがされておりはせぬ。女性のいのちは、肉体よりは、心のものじゃろう。さすれば、貞操とは、心のことだ。体をまかせないまでも、心でほかの男を想うとすれば、その瞬間だけでも、女のみさおは穢らわしく汚れたものになっている」

朱実には、そんな観念的な気やすめに安心はしていられないらしく、丹左の衣を透すほど熱い涙をながしぬいて、なお、

(死にたい、死にたい)

をいいつづける。

「これ、泣くな、泣くな……」

丹左は、その背なかを撫でてやっていた。だが、白い頸のおののきを、同情しては見られなかった。このきめのいい肌の香も、もう他の男性に盗まれた後のものかとつい思うのだった。

さっきの小猿が、鍋の近くへいつのまにか来て、なにか食べ物をくわえて逃げた。その物音に、丹左は、朱実の顔を膝から落して、