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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

良平は、がやがや首をあつめている町人たちを、木偶坊のように見て、

「さあ、帰れ帰れ、いつまでいても、無駄だぞ」

町人たちは、黙ったが、動こうとはしなかった。

すると、良平が、

「おい、つまみ出せ」

門人の一人へいったので、怺えていた掛取も、もう我慢ができないといったふうに、

「旦那、それじゃ余りひどいじゃありませんか」

「なにがひどい」

「なにがって、そんな無茶な」

「だれが無茶をいった」

「つまみ出せとはなんぼなんでも」

「しからば、なぜ神妙に帰らんか、きょうは大晦日だぞ」

「ですから、手前どもだって、年の瀬が越えられるかどうかっていうところで、一生懸命にお願い申しているんで」

「ご当家もいそがしい」

「そんな断り方があるものか」

「貴様、不服か」

「勘定をお下げくださりさえすれば、なにも文句はありません」

「ちょっと来い」

「ど、どこで」

「不埒なやつだ」

「そ、そんな馬鹿な」

「馬鹿といったな」

「旦那へいったわけじゃありません、無法だといったんで」

「だまれっ」

襟がみをつかんで良平は、その男を側玄関の外へ抛り出した。そこに立っていた掛取たちは、あわてて飛び退いたが、逃げおくれて、二人ほど折り重なって仆れた。