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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

――ちらっと、最初に耳にした手がかりは、吉岡清十郎と武蔵との間に、近日、試合があるらしいという巷のうわさ。

次にはきのうの夕方――五条大橋の大晦日の人だかりのなかで、その吉岡門の者が、三、四名して打ち建てて去った高札の表である。

あの文字を、お杉は、どんなに興奮した眼をもって何度も読んだことか。

(大それた武蔵めがよ、身のほど知らずも、ここまで来ればよい愛嬌。吉岡に討たれることは知れているが、それでは、国許へ公言して出て来たこの婆が面目がないわいの。どうあろうと、吉岡に討たるる前に、武蔵は、婆が手にかけ、あの洟たれ首の髻つかんで、故郷の衆に見せにゃならぬ)

躍起となった。

心には祖先神仏の加護をいのり、身には権叔父の白骨を結いつけて、

(やわか草木を分けても捜し出さずにおこうか)

と、またぞろ、松尾要人の門を叩き、そこでさんざん毒づいたり詮議立てした結果が、却って、がっかりしたものを負わされて、今――この二条河原の堤まで戻りかけて来たところであった。

ボウと河原の下が明るいので、お菰が火でも焚いているのかと思いながら、なんの気もなく堤に立って見たのである。