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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「ひ、卑怯者めが、この隠居は、おぬしなどより、四十もよけいに門松を迎えているのじゃぞ。青くさい口先で騙ろうとて、なんで騙られよう。むだ口は聞く要もない。討たれてしまやれ」

もう、婆の皮膚は、土気いろをして、語気に必死なものがこもっている。

武蔵は、うなずいて、

「わかる、わかる、おばばの気持はよくわかる。さすがは、新免宗貫の家中で重きをなした本位田家の後家殿だけのものはある」

「ひかえなされ、小伜。孫のようなおぬしなどからおだてられて、欣ぶ婆ではないわいの」

「そうひがむのが老婆の瑕、武蔵のことばもすこし聞いてほしい」

「遺言か」

「いや、いい訳じゃ」

「未練なっ」

燃えあがって、お杉は低い体をつま先で伸び出すように、

「聞かぬ聞かぬ、この期になって、いい訳など聞く耳は持たぬ」

「では、しばしの間、その刃を、武蔵にあずけておきなさい。さすれば、やがて五条大橋の袂へ、又八が来合わそうほどに、すべてのことも自らわかってまいろう」

「又八が? ……」

「されば、去年の春ごろから、又八へ言伝てがしてあるのです」

「何と? ――」

「今朝、ここで会おうと」

「嘘をいやいっ」

お杉は一喝して首を振った。