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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「ムム、ああ」
「ね……どっちです。考えると、わ、わたしは、く、くやしい」
欄の上へ顔を伏せて、
「ですから、もう私は、あなたに向って、愛してくださいなどということは、厚顔しゅうていえませんし……また、いえた義理でもない体ですの。――だけど武蔵様、今いったような心――処女ごころ――白珠のような初恋の心――それだけは失くしません。この後、どんな生活をしようとも、どんな男の巷を歩こうとも」
髪の毛の一すじ一すじがみな泣きふるえた。欄を濡らしている涙の下は、元日の明るい陽を燿々と乗せて、無限の希望へかがやいて行く若水のせせらぎであったが。
「む……うむ……」
もののあわれは頻りと武蔵の頷きを誘っている。――だが、あいかわらず異様な光をおびて、あらぬ方へ吸いつけられている彼の眸なのである。
――で、その視線の先を辿ってみると、橋の欄と川岸とのカギ形の二線へ対して、三角形を作り得る一線が真っ直に引けてゆく。
先刻から枯柳の幹に倚りかかって、じっと岸に立っている岸柳佐々木小次郎のすがたを、そこに見出すことが出来る。
四
父の無二斎から子供の時に、彼はこういわれたことがある。