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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
元より、伜の好きで、おぬしをほかの女子に見替えたことじゃ。今さら、よりをもどせともいうまいし、いうたとて、このばばが、そのような得手勝手、承知することじゃないほどに」
「……え、え」
「どうじゃ、お通、会っておくれるか。そなたと、又八と並べておいて、このばばから、きっぱりと伜にいい渡そうではないか。――さすれば、意見の一つもいうて、このばばの、母としての役目もすむ。立場も立つ」
「はい……」
きれいな川砂の中から、蟹の子が這い出して、春の日を眩しげに石の蔭へかくれこんだ。
城太郎は、蟹をつまんで、お杉隠居のうしろへ廻り、隠居の小さい髷のうえに落した。
「……でも、ばば様、今となってはかえって、又八さんに会わないほうが」
「わしが側について会うのじゃ。会うて、きっぱりしておいた方が、そなたの後々のためにもよかろうが」
「……ですけれど」
「そうしやい。わしは、そなたの後のためも思うてすすめまする」
「それにしても、又八さんは、今どこにいるのか、分らないではございませぬか。おばば様は、居所をごぞんじなのでございますか」
「すぐ……わかる……わかるつもりじゃ。なぜならば、つい先頃、大坂表で会うているのじゃ。