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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
いや、城普請の石揚げや石曳きに稼ぎに来ている労働者などは、明日のことさえ、思っていないのである。
昼飯をたべれば、
「はやく晩になれ」
と祈るのが、いっぱいな慾念だった。
それでも時節がら、
「戦争になるか」
「なれば何日頃?」
などと、時局談は、いっぱし熾んだったが、その心理には、
「戦争になったって、こちとらは、これ以上、悪くなりようがねえ」
という気持があるからで、ほんとにこの時局を憂いたり、平和の岐点をじっと案じて、どの方へ曲がるのが国と民のためだろうなどと考えているのでは決してないのである。
「――西瓜いらんか」
いつも昼休みに来る百姓娘が、西瓜の籠を抱えて触れて来た。石の蔭で、銭の裏表を伏せて、博戯をしていた人足の群れで、二つ売れた。
「こちらの衆は、西瓜どうや。西瓜買うてくれなはらんか」
と、群れから群れへ唄ってくると、
「べら棒め、銭がねえや」
「ただなら食ってやる」
そんな声ばかりだった。
すると、たった一人ぽち、青白い顔をして、石と石のあいだに倚りかかって膝を抱えていた石曳きの若い労働者が、
「西瓜か」
と、力のない眼をあげた。
痩せて――眼がくぼんで――日に焦けて、すっかり変ってしまったが、その石曳きは、本位田又八だった。