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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

又八は悪い気持でなかった。町人どうしの喧嘩なので、もしこの貧しい露店の物売りに損害をかけたら取ッちめてやろうと睨みつけていたが、何の事もなくすんで、露店のおやじのためにも、自分のためにも、同慶であったと思う。

「おやじ、よく人が出るな」

「師走なので、人は出ても、人足は止まりませぬでなあ」

「天気がつづくからいい」

鳶が一羽、人混みの中から、何か咥えて高く上がってゆく。――又八は赤くなっていた、そしてふと、(そうだ、おれは石曳きする時に酒は禁めると誓ったのだが、いつから飲み始めてしまったろう)

他人事のように考えた。

そして自ら、

(まあいい、人間、酒ぐらい飲まねえでは)

と、慰めたり、理由づけたりして、

「おやじ、もう一杯」

と、うしろへいった。

それと一緒に、ずっとそばの床几へ来て、腰かけた男がある。牢人だなとすぐ見てとれる恰好だった。大小だけは人をして避けしめるほど威嚇的な長刀であるが、襟垢のついた袷に上へ一重の胴無しも羽織っていない。

「オイオイ亭主、おれにも早いところ一合、熱くだぞ」

腰かけへ、片あぐらを乗せて、じろりと又八のほうを見た。足もとから見上げて、顔のところまで眼がくると、