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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
のであった。
「いるな」
又八が、ため息つくと、
「いるだろう、へたな茶屋女や歌妓などより、遥かにましだ。――売女というと、いやな気がするが、冬の一夜をここに明かして、その前身なり、氏素姓なりを、寝ものがたりに聞いてみると、みな、生れた時からの売女ではないて」
肩と肩のすれ合ってゆく往来中を、八十馬は、得意になって、弁じていた。
「室町将軍の奥につかえていたという比丘尼があるし、父は武田の臣だったの、松永久秀の縁類の者だのという女が、この中にはずいぶんある。――平家の没落した後もそうだったが、天文、永禄からこっちは、あの時代などから見るともっと激しい盛衰がくり返されたのだから、浮世の下水には、こんなふうに落花の芥が溜るのだろうな」
それから一軒の家へ上がって、八十馬に遊びの仕方をまかせると、これはこの道での豪の者とみえ、酒のあつらえ方、女たちのあつかいよう、そつがなくて、なるほど、この裏町はおもしろい。
泊ったことはもちろんである。昼間になっても、飽いたといわない八十馬だった、お甲の「よもぎの寮」では、いつも日蔭者でいた又八も、多年の鬱憤をここに晴らしたか、