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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

と、幼い時に打擲したように、又八の尻をぴしぴし打って、

「よもやもう、この世に生きておろうとも思わなんだに、のめのめこの大坂に生きていくさるとは憎い憎い、ええもう憎い奴よの。なんで故郷へもどって来て、ご先祖様のまつりをせぬか、この母にちょっとでも、顔見せぬか。親類縁者どもが、あれよこれよと案じているのも、われには弁えがつかぬかよっ」

「――お、おふくろ。かんべんしてくれ、かんべんしてくれ」

又八は、嬰児みたいに、母の手の下からさけんだ。

「悪いことは知っている。知っていればこそ、帰れなかったんだ。今日も、余り不意だったのでびっくりして、逃げる気もなく、おらあ駈け出してしまった。……面目ない、面目ない! おふくろにも叔父御にも、おらあただ面目ないんで」

と、両手で顔をおおった。

それを見ると、婆も目鼻に皺をあつめて、すすり泣いた。しかし気丈な老婆は、自分が脆くなるのをすぐ自分の心で叱咤しながら、

「ご先祖の恥さらし、面目ないというからには、どうせ碌なことをしていくさったのではあるまいが」

権叔父は、見るに見かねて、

「もうよかろう、婆、そう打擲しては、かえって又八を拗け者にするぞよ」