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かいじょうのみち
海上の道
柳田 国男
まえがき「海上の道」筑摩書房<br> 1961(昭和36)年<br> 海上の道「心 第五巻第一〇号・第一一号・第一二号」酣燈社<br> 1952(昭和27)年10月~12月<br> 海神宮考「民族学研究 第一五巻第二号」日本民族学協会<br> 1950(昭和25年)11月<br> みろくの船「心 第四巻第七号」酣燈社<br> 1951(昭和26年)10月1日<br> 根の国の話「心 第八巻第九号」生成会<br> 1955(昭和30年)9月1日<br> 鼠の浄土「伝承文化 第一号」成城大学民俗学研究室<br> 1960(昭和35)年10月10日<br> 宝貝のこと「文化沖縄 第二巻第七号」沖縄文化協会<br> 1950(昭和25年)10月20日<br> 人とズズダマ「自然と文化 第三号」自然史学会<br> 1953(昭和28)年2月1日<br> 稲の産屋「新嘗の研究 第一輯」創元社<br> 1953(昭和28)年11月23日<br> 知りたいと思う事二、三「民間伝承 第一五第七号」日本民俗学会<br> 1951(昭和26年)11月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 182,344 字 · 353 页
黒島では野山の奥までも鼠が充ち満ちて、青いものは一葉もなくなり、人の食物としては藷の蔓さえ残らなかったという話で、昔ならば当然立退くか自滅するよりほかはないような切迫した事態であった。だから鼠の最期まで見届ける余裕がなかったのも是非がないが、それでもまだほんの偶然に、見たり出逢ったりしたことを、今ならば記憶している人がないとも限らぬ。是からも注意しておりたいものと思う。もちろん当てもなく食物を求めあるくうちに、餓えて殪れた鼠の数は多かったにちがいないけれども、もともと水を泳ぐ能力をもっているのだから、何か僅かの誘導があれば、群をなして海に飛びこみ、近くに上陸するところがあればしあわせ、広い海上へ出てしまうと、次から次へと不利な条件が累加してきて、大多数のものが生命を失い、ただその際少部分だけが、種族を存続しうるように定まっていたのではなかろうか。そうでないならば方々の離れ小島に、鼠が入って住んでいる理由が、私らにはちょっと考えられない。
それでも見た人がないから、書いたものが伝わっていないからと、首をかしげる歴史家もないとは言えぬが、それをいうならば人だって同じことである。