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かいじょうのみち

海上の道

柳田 国男

まえがき「海上の道」筑摩書房<br> 1961(昭和36)年<br> 海上の道「心 第五巻第一〇号・第一一号・第一二号」酣燈社<br> 1952(昭和27)年10月~12月<br> 海神宮考「民族学研究 第一五巻第二号」日本民族学協会<br> 1950(昭和25年)11月<br> みろくの船「心 第四巻第七号」酣燈社<br> 1951(昭和26年)10月1日<br> 根の国の話「心 第八巻第九号」生成会<br> 1955(昭和30年)9月1日<br> 鼠の浄土「伝承文化 第一号」成城大学民俗学研究室<br> 1960(昭和35)年10月10日<br> 宝貝のこと「文化沖縄 第二巻第七号」沖縄文化協会<br> 1950(昭和25年)10月20日<br> 人とズズダマ「自然と文化 第三号」自然史学会<br> 1953(昭和28)年2月1日<br> 稲の産屋「新嘗の研究 第一輯」創元社<br> 1953(昭和28)年11月23日<br> 知りたいと思う事二、三「民間伝承 第一五第七号」日本民俗学会<br> 1951(昭和26年)11月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 182,344 字 · 353 页

青空文庫

九

広い意味では是も天然の分布であろうが、かつて海上を漂到した無数の種子の中から、たまたま環境に適した僅かな個体だけが、芽を吹き大木となった例はガジマル、またアコウという樹などにもあり、または埋立新田の潮除堤の上にたちまち繁茂してゆくトキハという一種の大きな萱なども、その名称から考えてみて、やはり遥かなる海の彼方から、新たに渡って来た種なることがわかる。すなわち独りこの一種の椰子の実だけが、久しきを経てついに移住に成功し得なかったのである。

九

等しく漂着という中にも、色々の運命のあったことがまず考えられる。たとえば椰子の実の一例についてみても、夙く南海の外の荒浜から、中華の文化地帯にもたらされた、やや不精確なる口碑がまず伝わって、ヤシという言葉がさき廻りをして、待ち受けていたなどは奇遇であった。北太平洋の多くの珊瑚礁に、この植物が分布したのは人の力ではなく、したがってまた新たに始まったものでもないとすれば、つまりは我邦の荒浜の事実が近世になるまで伝わらなかったのである。親しくこれを看た者も注意せず、或いは名を付してやがて忘れてしまうような各地の出来事を、それと最も縁の薄い人の手に成った文献によって、統一しようとしていたのは文化の病だった。