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かいじょうのみち
海上の道
柳田 国男
まえがき「海上の道」筑摩書房<br> 1961(昭和36)年<br> 海上の道「心 第五巻第一〇号・第一一号・第一二号」酣燈社<br> 1952(昭和27)年10月~12月<br> 海神宮考「民族学研究 第一五巻第二号」日本民族学協会<br> 1950(昭和25年)11月<br> みろくの船「心 第四巻第七号」酣燈社<br> 1951(昭和26年)10月1日<br> 根の国の話「心 第八巻第九号」生成会<br> 1955(昭和30年)9月1日<br> 鼠の浄土「伝承文化 第一号」成城大学民俗学研究室<br> 1960(昭和35)年10月10日<br> 宝貝のこと「文化沖縄 第二巻第七号」沖縄文化協会<br> 1950(昭和25年)10月20日<br> 人とズズダマ「自然と文化 第三号」自然史学会<br> 1953(昭和28)年2月1日<br> 稲の産屋「新嘗の研究 第一輯」創元社<br> 1953(昭和28)年11月23日<br> 知りたいと思う事二、三「民間伝承 第一五第七号」日本民俗学会<br> 1951(昭和26年)11月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 182,344 字 · 353 页
古い生活の痕の消えてしまうのも遠くはあるまいが、それでも自分などの旅をした頃までは、三河の作手のような静かな山村でなくとも、四国九州の海辺や鉄道沿線にも、穂のまま稲を積む習俗はなお見られた。東北地方は一般にニホの形が大きく、また技術が念入りであって、近年は稲藁だけでなく、薪も枯草なども巧みにニホに積むようにはなっているが、なお多くの村々に穂ニホまたは本ニホという名称の存するのを見ると、ニホが本来は刈稲をそのまま積んで置く場所なることを、まだ意識しているのかと思われる。ニホを新穂の義と解している人が今もそちこちに有る。岩木山の谷の奥にはニヒボの滝、厳冬にその滝の氷の形によって、次の収穫の豊凶を卜すべく、深い雪を分けて見にゆく農夫も元は多かった。漢字では「乳穂」とも書き、人の乳房の形に氷るとも言ったが、それはおそらくは文字の知識のある者の想定に限られ、普通には是がニホであることをみな知っていた。羽後の仙北の境の山には、ニウツムリという遠くから見える一峰があって、それも文字では乳頭山などと書いているが、形は明らかに稲ニホと近く、しかも或る期節に消え残った雪の形を眺めて、来る秋の稔りを占なう点は、津軽の山中の滝とも似ていた。