Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

Lesen Sie 故郷七十年 (こきょうしちじゅうねん) von 柳田 国男 (やなぎたくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 257.350 Zeichen · 507 Bildschirme

Aozora Bunko

話が長たらしくていよいよ跋文の体を得なくなったが、八十三翁の記憶力なんか、少しでも当てになるものでないことを、今度はまたしみじみと思い知ったのは、この福渡氏との会話の際であった。問答の筋とは何の関係もなく、頻りに眼の前に浮んで来るのは、あの借宅の裏庭の朝の景で、そこには井戸があり、四つ目垣があり、大輪の朝顔の瑠璃色なのが、こちらを向いて幾つも咲いていて、それに平がなで「くにを」「くにを」という文字が、一つ一つ花に書いてあり、これに仰天してあたりを見回すと、一人の婦人が片手に小さな瓶を持って笑っていて、こういう強い酢で書いて置くと、後に字が出るのだと教えてくれた。

それは母でしたろうと、福渡氏はいわれるが、明治十七年にはまだ花嫁さんだから、これほどの戯れはできなかったろう。

お時さんという大きな伯母さんは、初度の結婚が不幸だったために一時はひどい病気になり、それゆえにまた自分なども、じつはあの前後に世を去られたように思い込んでいた。それが今度はこの気まぐれな思い出が縁となって、あれからなお五十年近く、平和な生活をつづけられたことが明らかになった。