Japanische Klassiker mit Furigana
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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
Lesen Sie 故郷七十年 (こきょうしちじゅうねん) von 柳田 国男 (やなぎたくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 257.350 Zeichen · 507 Bildschirme
もと私の家のあった中所というところから、氏神様へ詣でるために着物を更め、上坂という坂を登り始めると、だしぬけに一人の皺くちゃのお婆さんが飛び出して来て、私の袖にすがったのには驚いた。眼に涙をいっぱいためて、ものがいえないほど感情を昂らせている。よく考えてみると、どうやら私の弟と間違えているらしい。私の家では、ちょうど同じ時期に兄弟三人とも故郷を離れているので、私とつぎの弟とを間違えて久濶の情に耐えなかったらしいのだが、不思議にも私はその老婆の名前まで記憶していた。彼女の家は「樽屋」という一時繁栄した店で、隣村のいまの市川町屋形という土地からそこに貰われて来た養女の、それも「おせん」といった。後年、西鶴の『五人女』を読むと樽屋おせんが登場するので、そんなときにはいつも彼女を連想したので、その名をおぼえていたわけだったが、その女に村の主立ち衆の前ですがりつかれたのには、まったく面食らった。老婆でなくて、ちょっと綺麗な女性ででもあったら本当に困る所であった。何か裏面に事件があったんじゃないかなどと誤解されたことであろう。
その老婆もそれから間もなく亡くなったそうだが……。