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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

七

七

ふと清十郎の燃えている眼を見て、朱実はからだが硬ばってしまった。

「…………」

無意識に身を退きかけたが、彼の手は、彼女の手くびを離さない。痛いほど握りしめ、

「なぜ逃げる?」

とがめるように額に青すじを立てる。

「逃げやしません」

「きょうは皆、留守なのだ、こういう折はまたとない。そうだろう朱実」

「なにがです」

「そう棘々しくいうな。もうおまえと馴染んでから小一年、おれの気持もわかったはず、お甲はとうに承知なのだ。おまえがおれに従わないのは、おれに腕がないからだとあの養母はいっている。……だから今日は」

「いけません!」……突然、朱実は俯ッ伏して、

「――離してください、この手をこの手を」

「どうしても」

「嫌、嫌、嫌ですっ」

手くびは捻じ切れそうに赤くなってくる。それでも清十郎は離さないのである。こういう場合に京八流の兵法が応用されては、いかに彼女が争っても無駄であろう。それにまた、きょうの清十郎はいつもとやや違っていた。いつも自暴に酒を仰飲って執こくからむのだが、きょうは酒気はないし、青白い顔をしているのだった。

「――朱実、おれをこうまで意地にさせて、おまえはまだ、おれに恥をかかすのか」