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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

三

「城太さん、おじいさんの悪口いうと、この馬が聞いているから、怒って、途中で振り落すかもしれませんよ」

「こんな耄碌馬に振り落されてたまるもんか」

「乗れますか」

「乗れるさ。……ただ、背がとどかねえや」

「そんなふうに、馬のお尻をかかえてもだめですよ」

「抱いて、乗せとくれよ」

「やっかい坊ね」

脇の下へ両手をさし入れて、彼女が馬の背へ乗せてやると、城太郎は、にわかに地上を睥睨してみたくなって、

「お通さん、歩いておくれよ」

「あぶない腰つき」

「だいじょうぶだよ」

「じゃあ、出かけますよ」

お通は手綱をとって、

「おじいさん、それでは」

と茶屋の軒へ、後ろ向きにいいながら歩み出した。

すると、百歩も行かないうちに、姿は見えないが朝靄の中から、オーイッと高く呼ばわって、忽ち追い着いて来そうな迅い跫音が聞えた。

三

「誰だろ」

「私たちのことかしら」

駒を止めてふり顧ると、煙のような白い靄のうちから、一個の人間がだんだんその影を濃くあらわし、やがて輪廓だの色だの、年頃や人態まで見えるほどに、距離を縮めて来た。

夜だったら近づかぬ間に、二人は逃げ足をおどらせたかも知れない。長い野太刀をこじり高に差し込み、鎖鎌を前差に帯びている眼の怖い男だった。