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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
二
すり切れたわら草履をばたつかせて、朱実のうしろへ寄って来た、そして地に曳き摺っていた彼女の帯紐の端をひろって、
「まさか娘やは、謡曲狂言によく出てくる狂女じゃあるめえ。……人が笑うわな。……美い顔をしているのに、髪だって、もすこしどうかして歩いたらどうだい」
二
うるさいと思うのであろう。朱実は耳がないような顔をして歩いてゆく。それを赤壁八十馬は、単に、若い女のはにかみと呑みこんで、
「娘やは、都ものらしいが、家出でもしたのか? それとも、主人の家でも飛び出して来たのか」
「…………」
「気をつけなよ。おめえみたいな容貌よしが、そんな……誰が見たって、事情のありそうな、ぼんやり顔でうろうろ歩いていてみな、今の都には、羅生門や大江山はないが、そのかわり、女とみたらすぐ喉を鳴らす野武士がいる、浮浪人がいる、人買がいるぜ……」
「…………」
ふんとも、すんとも、朱実は答えないのに八十馬は独りで喋って尾いて行きながら、
「まったく」
と、返辞まで自分でして、
「この頃、江戸の方へ盛んに京女がいい値で売られてゆくそうだ。むかし奥州の平泉に藤原三代の都が開かれた頃には、やはり京女がたくさんに奥州へ売られて行ったものだが、今ではそのはけ口が江戸表になっている。