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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「誰だ、ほかに苦情のいいたい奴は。些細な勘定をたてにとり、吉岡家の表へ坐りこむなどとは沙汰の限り。おれがゆるさん、若先生が払うといっても、おれは払わさん。さ一人一人、頭を出せ」
町人たちは、彼の拳を見て、われがちに腰を上げた。しかし門の外へ逃げ出ると、腕に力を持たないだけに、口を極めて、罵った。
「今に――この門へ、売家の札が貼られたら、手をたたいて、嘲ってくれようぞ」
「遠くないうちだろうて」
「わしらの思いだけでも」
そんな怨嗟を、門の外に聞きながら、良平は屋敷の中で、腹をかかえて笑っていた。そして、他の連中と共に、奥の清十郎の居間へ入って行った。
清十郎は、沈湎として、独りで火桶をかかえていた。
「若先生、ひどくお静かですな。どうかいたしたので」
良平が訊ねると、
「いや、どうもせぬ」
股肱とたのむ門人中の門人が、六、七名もそろって来たので、清十郎はやや顔いろを直して、
「いよいよ、日が迫ったの」
「迫りました。その儀につき、一同して参りましたが、武蔵へいい渡す試合の場所、日時、あれは、どういうことに決めますかな」
「さよう? ……」
清十郎は考え込む。
三