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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
「さあさあこれから上り坂じゃ、辷らぬように用心せい」
修験者は云いすてて上って行く、二人も無言で上って行く、険しい長い崖道を三人は根気よく上って行く。
長い坂道を上り切ると、やがて平地へ出たらしい。修験者はにわかに足を止めて、四辺の様子を窺ったが、間もなく修験者の口の辺から笛の音が一筋流れ出て夜の闇の中に散って行った、どうやら合図の笛らしい。忽ち前方の闇黒中に灯火が一点浮かび出た。人魂のように左右に揺れ、そのまま消えて闇となった。
「よし」
と修験者は呟いたが、暗中で二人を返り見た。
「何も恐れることはない。それともそち達は怖いかな?」
「いいや恐ろしくはござらぬが、不思議のこととは思い申す」数馬は凛々しくこう答えた。すると武兵衛が後をつけた。
「今日は最初から稀有な事ばかりで、不思議にも奇怪にも食傷してござるよ」
すると修験者は哄笑したが、
「やがて間もなくその稀有の事も、稀有でなくなる時が来よう。明らかに解る時が来よう」
修験者はニタリと笑ったらしい。
「とにかく若衆も雲助殿も胆の太いのが頼もしい。もっともそこを見込んだればこそここまで案内したようなものじゃ」