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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
物の怪に狂う吾妻姫
まずそれまではお身大切に……」
「あなたもお体ご大切に。旅中ご注意遊ばすよう」
「申すまでもないがお師匠様を、どうぞご大事に遊ばすよう」
「しかと心得てござります」
いざ、と常陸は立ち上がった。脚拵えも厳重に編笠を深くいただいて枝折戸をあけて野路へ出た。才蔵もそこまで送って行きそこでまたもや会釈をする。
「おさらばでござる才蔵殿」
「これでお別れ申します」
常陸はスタスタと歩いて行く。丈なす薄の穂の蔭にやがて姿は隠れ去った。
物の怪に狂う吾妻姫
暮れるに早い秋の日が、釣瓶落としに暮れかかり、晴れていた空が曇ると見る間に、時雨がハラハラと落ちて来た。見る見る野面や山の肌は霧にこめられて真珠色となり、庵室の庭に咲き乱れた百千の秋の草花は、濡れて一層色を増した。
雨はやみそうにも見えなかった。
庵室の中では三太夫が鼾をかいて眠っている。容易に醒めようとも思われない。一、二度才蔵は側に寄って肩に手をかけ揺りおこしたが眠りはついに醒めなかった。
才蔵は夕餉の仕度をしようと厨の釜に火を仕掛けた。庵室の中は静かである。
その時、枝折戸を外から開け、狩装束の侍が三人庭先へはいって来た。