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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
名香月宮殿
「いと易いことじゃ、聞かせてやろう」
武士は鷹揚に笑ったが、
「よく聞け、俺の姓名は……」
「しばらく!」と突然、一人の武士、頬髯を生やした武士が、白髯の武士を遮った。
名香月宮殿
「薄が野山で招いている。落ち鮎が川に瀬走っている、ほんにもう秋がおとずれて来た。なんという寂しい眺めであろう」
鳰鳥は窓から野山を眺め、この頃では一入物の憐れをしみじみ心に感じながら、誰に云うともなく云うのであった。
彼女のもとへは、あの夜以来、白髯の例の老武士が、あの時のように、供を連れて、三日にあげず通ってきた。あの時、名前はと訊いたけれど、家来に止められて名のろうともしなかったが、その後しげしげ通って来てもやっぱり名のろうとはしなかった。
「このように白髯があるのだから、白髯の男とでも云うがよい」
ある時戯むれにこう云ってからは、長者の家の者達は、それ以来白髯の老武士を「白髯の殿」と呼ぶようになり、額に凄い太刀傷のある赤ら顔のものものしい武士のことをば「傷のお方」と呼んだりした。
長者にとってはこの一行は、またとない大事な客であった。酒は浴びるほど飲んでくれる。遊女は幾人でも聘んでくれる。