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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
二人左陣
一筋の谷川が谿谷を貫いて麓の方へ流れているが、その涓々たる水音さえ蒼白いもののように思われる。
ここにある諸の生物無生物は皆蒼白く思われたのである。――それほどここには年老いた樹が厚い緑葉を四方へ伸ばし千本万本数知れず生い茂っているのであった。しかし無数のそれらの木々も楠の老木に比べれば若木と云わざるを得なかった。その楠の老木は、小丘の上に聳えている。二十人の人間が手を繋いで、その木の周囲を巡っても未だ木の方が太いであろう。根は高く盛り上がり、木肌には古苔一面に附き、梢の高さは空の雲さえそこで左右に分かれるほどである。
草木の王。谷の主人。――鬼王丸の本体である。
おりから一人の旅の侍が、麓の方からやって来た。年恰好は二十七、八。厳重の旅仕度。歩き方に無駄のないのは旅路に慣れているからであろう。――楠の大木に眼を付けるといかにも感心したようにピタリとその前で立ち止まった。
これぞ当時名に轟いた三盗賊のその一人、人丸左陣という人物であった。
と、その時、三抱えもあろうか、すくすくと空に聳えている巨大な杉の樹蔭からツト人影が現われたが、無言で左陣を小手招いた。