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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
お銀粂太郎
「さぞよい所でございましょうね」
「京や浪華には及びませぬが、夏涼しく冬暖く、信玄様のご威光で、外敵もなく国内静まり、住みよい所でございます」
「そうと聞いては甲州へ行って見とう存じます」
「おいでなさいませ。お供致しましょう」
粂太郎は真顔で云った。
「はい有難う存じます。……けれど、乱れた戦国の世に、他国の女がうかうかと甲州の地へ行けましょうか?」嘲けるようにお銀は云った。
「これはいかにもご道理、信玄公には鉄砲と女子を、厳重に吟味される筈、うかとはいることは出来ませぬ」
「それではやっぱりこの古田で、冬を越すことに致しましょう」
お銀の声は寂しそうであった。
「いえ甲州へはいる方法、ただ一つだけござります」
「どんな方法でございましょう」
「それは」と云って云い淀み、「私の女房じゃとこう云えば……」
「あの入国出来ましょうか」
「はいはい、それは出来ますとも」
「でもご迷惑でございましょうね」
お銀は顔を赧らめたのである。
「なんの迷惑致しましょう。ご迷惑なはそっちのこと」
「いえいえ妾は迷惑どころか、仮りにもあなたの女房じゃと、一時なりと云われましたら、それこそ本望でござります」