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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

もちろん、それは思われるだけで、眼には決して見えないのであった。ただ、眼に見えるものと云えば、洞然と静もる巨大な谷と鬱然と聳える雪の山と地に這っている灌木と氷張り詰めた河ばかり。そしてそれらを蔽うている暗い寂しい空ばかり……。

しかもやはり山と谷とからは、武者押しの動揺が聞こえるのであった。それも無意味の武者押しではなくて山と谷とが敵味方に分かれ互いに攻め合っているらしい。

そう思うと数馬も裸体武兵衛もにわかに興味を覚えて来た。二人は眼前の谷と山とをかわるがわる熱心に眺めやった。

その時、突然、二人の前に、奇怪な現象が湧き起った。――今まで寂然と静まっていた谷の中が俄然ざわめき立ち、生命なき岩や灌木が忽然と空へ舞い上がり、自然の理法を破壊して、山へ向かって急斜の坂を転がりながら登るではないか。と、山上からも騒然たる人間の喚叫が湧き起こり、眼には見えないが走り廻わる人の気勢が繁くなった。

転がりながら登って行った灌木や岩は登り登って、山の中腹まで行ったかと思うと、そのまま形は見えなくなった。するとそこから嘲笑の声が、気味よげにドッと起こったのである。