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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

四辺は益※(二の字点、1-2-22)静かである。森閑闃然として音もない。

その時、山の一所から、一筋真っ直ぐに白い煙りが空に向かって立ち上った。煙りは忽ち火光を纏い、金竜雲に蜒るがように次第次第に弧形を画き、どこまでもどこまでも上って行く。そうして見る間に末広がりに煙りの先が広がって空一面に漲ったかと思うと、沛然と暴雨が降りかかった。暴雨は谷間に滝のように注ぎ、そこに籠った総ての物を押し流そうとするのでもあろう。しかし谷間は闃寂として立ち騒ぐような気勢もない。

雨は次第に勢いを弱め、やがて全く降り止んだ。谷間には何んの変化もない。やっぱり雪に埋もれている。

その時、谷の中央で轟然たる響きが轟いた。二道の火気が空に向かって矢のように速く飛んで行った。と、暗黒の空の二ヵ所に月と日輪とが現われて一瞬四辺が真昼のように紅色の光に輝いたが次の瞬間には消え失せた。

そうして後には異変もない。やっぱり空は曇っている。

いずれも幻影に過ぎないのであった。

五右衛門は苦々しく笑ったが、

「夜でも明けたら変化もあろう。今は戦いは居坐りじゃ」

ほんとに戦いは居坐りであった。