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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

すると、忽然、人の影が、老師の歩み去った反対の方角の、左手の廻廊へ現われた。二人はピッタリ寄り添いながら何やらヒソヒソと囁き合った。

「時刻はよかろう。さあ行るがよい」

一つの影がこう云った。それは青竜二郎である。

「よろしい」

と、それに答えたのは、同じく四天王の白虎太郎であった。

白虎太郎は、形を改め、厳かに呪文を唱え出した。左右の掌を合掌に結び、パッと掌中を空にした。

「薩婆輸駄薩達磨薩婆輸度※」

これこそ真言秘密の中「浄三業印」であって、彼は繰り返し五遍唱えた。それから「仏部三昧耶」に移り、さらに「蓮華三昧耶」に移った。それから右手を空に振り、「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前」――バッバッと九字を切ったのである。

忽ち呻き声が聞こえて来た。

それは鳳凰の間からであった。どうやら市之丞の声らしい。

「こんどは俺じゃ」

と云いながら青竜二郎が進み出た。

彼も両手を前へ突き出しあたかも何物かを招くかのように左右の十指を縦横自在に、不思議な形に結びつづけたが、これぞ「東方降三世夜叉」の呼魄と名付ける印であった。

「うん!」

と一声、青竜二郎は、音を高く響かせたが、その声の未だ終わらぬ中に、ヒーッと女の叫び声がした。