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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
顔は蒼褪め肉は落ち、衣裳は千切れ且つ穢れて、土牢の内で永い間苦しめられた辛苦の態がまざまざとして現われている。そればかりでなく青竜二郎のためにたった今鞭で打たれたと見え、頬の辺り手の甲などから生血がタラタラと滴たっている。
正に酸鼻の極みである。
ここへ市之丞を引き出したのは、鬼王丸の内命であって、土牢の内で殺すよりもこの神殿で殺した方が一層秘密が保てるからである。
「はてな、石右衛門は何をしているのか。もうやって来てもよい頃じゃに」
青竜二郎は呟きながらまたピシピシと鞭を鳴らした。
石右衛門と二人で市之丞を処分することになっているのであった。
「二郎殿! 二郎殿!」
この時誰やら狐格子の彼方で青竜二郎を呼ぶ者がある。
「おい」と答えて立ち上がった。「石右衛門かの?」と確かめるように訊いた。
「妾でござんす、葉末でござんす。この格子を開けてくだされ」
戸外の声はこう云った。
「なに、葉末とな? これは意外」
二郎はツカツカと格子まで行ったが、じっと戸外をすかして見た。
「うむ、いかさま葉末殿じゃ。が、全体何用あって、この深夜にこのような処へ……」
審かしそうに訊ねたものの、日頃から夢中に恋いこがれ、それとなく小あたりに当たっても見たが、そのつどにべもなく刎ねつけられた、当の恋女がたった一人で、自分を呼んでいるのである