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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

気の毒そうに春房は訊いた。

「ハイ有難う存じます。浮雲いところをお助けくだされ、何んとお礼を申してよいやら、幸い怪我も致しませぬ」

女は恭しく一礼した。

「おおそうか、それはよかった。……見ればどうやら踊り子の様子、城内の者か城外の者か?」

「ハイ妾は城外上松、寝覚の床の畔の者、名は六と申します」

「連れはあるかな? それとも一人か?」

「妾一人でございます」

「それは少し大胆すぎるな。もう相当夜も深い、早く家へ帰るがよい。しかし一人では心もとない。送りの者を付けて進ぜる」

「ハイ有難うは存じますが、まだ帰りたくはございません」

「さては踊りが好きと見えるな」

「踊りは好きではございませんが、尋ねる人がございますので……」

「ああそうか、それならよい」

こう云いながら春房は、ここまで仄かに射し込んで来た篝の赤い火の光で、お六の顔をじっと見た。

「可愛らしい顔だ。清浄な顔だ。深山の霊気が集まって、作られたような気高い顔だ」

女色に淡い春房ではあったが、こう思わなければならないほど、無邪気な清浄な美しい顔を、そのお六は持っていた。

春房と別れた娘のお六は、馬場の方へ小走って行った。