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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

寝台が眼の前へ現われて来た。距離が一尺となり五寸となった。まさに彼女は押し伏せられようとした。

と、その時、部屋の外から、

「お父様!」と呼ぶ声が聞こえて来た。

それは無邪気な女の声であった。

それを耳にすると大物主は、弾かれたように飛び上がり、あわてて鳰鳥を突き放して渋面を作って突っ立った。

女の声は近寄って来た。

「お父様! お父様! お父様!」

そうして部屋の戸口へ来て、あどけない眼差しで差し覗いた。

大物主の一人娘、麗人国の讃美の的、美しい十七歳の美麻奈姫であった。

孔雀を刺繍した絹の布を、彼女は両手に捧げていた。それは彼女が刺繍したもので、それを父に見せようとして、探してここまで来たらしい。

姫の美しさは鳰鳥と異い、清浄であり無垢であった。麗人国を泥濘とすれば、彼女はそこへ咲いた蓮の花であった。周囲が余りに穢れているため、一層彼女は清浄に見えた。

その彼女の清浄さは、浮世を知らない清浄さであった。それは深窓の姫のみが持つ、痛々しいまでの美しさであった。

鳰鳥の美を動的とすれば、美麻奈姫の美は静的であった。鳰鳥はともすればコケットとなった。