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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
鳰鳥はさり気なくこう云った。しかし彼女のそういう声は怪しく顫えを帯びていた。
「自分の部屋へ帰られるとな?」甚五衛門は嘲笑い、「殿のお許しも出ぬうちに、勝手に部屋へ戻られるのはチト我儘ではござらぬかな」
「私は我儘が大好きじゃ!」鳰鳥も嘲笑を浮かべながら、「私は大の我儘者じゃ。私は元来遊女の身分、自分から好んでこのような窮屈な館へ参ったのではござらぬ。好まぬ私を無理に連れ出し、窮屈なお館へ上げたのはいったいどなたでございます? 好まぬ館へ参ったからは、せめて少しの我儘ぐらいは、許されるのが当然じゃ」
「少しぐらいの我儘ならば大目に見遁がしも致しましょうが、お家にとっての大兇器、マドリド司僧の髑髏盃を、蔵から出そうと仰せられるは、一通りの我儘ではござりませぬ。それのみならずこの某がその髑髏盃の由緒を語り、その髑髏盃のこれ在る事を、どうしてご存知なされたかと、お尋ね致すや顔色を変えてご返辞もなく座を立たれますは……」
「私が返辞をしなかったとか? いやいや私は答えた筈じゃ。髑髏盃がお館に在ることを私は侍女から聞きました」
「いやいやそれは偽りでござる! 腰元も近習も知る訳がない! ――がしかしここにただ一つ、それを知られる手段がござる」