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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
お世話致されぬばかりでなく敵の家来と聞くからは、このままその座は立たせはせぬ。さあ尋常に勝負しようぞ」
お霜はやにわに立ち上がり、懐剣スラリと引き抜いた。
しかし右門は立ちも上がらず、さも沈痛に云うのであった。
「そなたが我が身を敵と名のらば我が身もそなたを敵と云おう。勝負をするのはいと易いが、そなたは女子の身ではあり、我にとっては命の親、どうして刃を向けられよう。こうして坐っておりますほどに、早や我が首を打ち取りなされ」
端然として眼をつむり、微動さえもしなかった。
お霜はピタリと坐ったが、
「今はこのようにおちぶれても昔はこれでも武士の妻、貰い首など致しませぬ。そなたが切ってかからぬなら私も切ってはかかりませぬ。そなたがこの座を立たぬなら私もこの座を立ちませぬ。こうして十日でも二十日でも息のあるうち坐ったまま睨み合っていようではございませぬか」
「そなたがそういう覚悟ならこの身もこのまま坐り往生、幾日でも睨み合っておりましょうぞ」
二人は相対して坐ったまま、互いに顔を睨み合った。
その間も絶えず春の空では雲雀が歌を唄っている。庭の隅では桜の花が微風に揺れて散っている。