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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

七

※(歌記号、1-3-28)ありし夜店をそのままに

後世のともしと明らけく

弾いたはやっぱり玉菊であった。

声が乱れてホロホロ泣かれる。

「姐ご」

とその時格子をあけて、男が一人はいって来た。

七

喜連川の浪人櫛木団八、四十そこそこの男であった。

「相変わらずの玉菊か、そいつよっぽど好きと見えるなあ」

春の塵埃でよごれた足を、バタバタと叩いて上がって来た。

(好かない奴)

と思ったが、こんな時には話相手が欲しい、三味線を横へ押しやると、

「まあお坐りな」

とお吉はいった。

「どうした風の吹き廻しか、今日は滅法愛想がいいの」

火鉢を前に近々と坐り、

「ついでに日頃の念願ってやつを、どうだい……」

とお吉の手を握った。

「友食いばかりはご法度だよ」

「別れてしまやア九十郎とは他人、俺と出来たって何が友食いだ」

「何んだって、別れたって……」

「いま道で九十郎と逢って聞いた」

「…………」

「合わせものが離れものになったそうだの」

「九十郎さんがそんなことを……」

「脇本陣の素封家の、楢屋佐五衛門の一人娘、お浜という十九の初花に、想われて見りゃア九十郎だって魂フラフラになるだろうよ」