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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

三

「駕籠待て!」

と一人の浪人が叫んだ。

三

バラバラと駕籠を取り捲いた。

「佐久に起こった百姓一揆、窮民の惨状見るに堪えず、天下無禄の浪人ながら、一臂の力添えようと、同志とともに蹶起したもの、この地は他領とはいいながら、地続きのこと援助願おうと、こうして参ったわれわれでござる。家持つ方々よりはいうまでもなく、道中往来の諸人よりも、応分の援助たまわりたいもので。……失礼ながらお顔拝見」

いって浪人は油単をかかげた。

「一人はお武家、一人は婦人。……ご夫婦かな? そうとは見えぬ」

するともう一人の浪人が、

「ちと変じゃ、駈け落ち者らしいぞ」

するともう一人の浪人が、

「食うや食わずの百姓があるに、色の恋の駈け落ちのと、幸福すぎて面憎い。こういう輩からはずんと金をな!」

「それよろしい」ともう一人がいった。

「それにわれわれが挨拶をするに、駕籠に乗ったまま応対するとは、作法さえ心得ぬ無礼者!」

「駕籠から出せ!」

「ひきずり出せ!」

範之丞とお吉とは引き出された。

「いい女だ! これは凄い!」

「男も美男だ! 河原者かな」

「旅用の金子いただこうではないか」

「応分の寄附お願い申す」