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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十

「いや……さあ……さあ何んと……」

曖昧に云って又助は黙った。

遙かの右に聳えているのは、八ヶ岳、蓼科山、そうしてそれの斜面であり、スロープには子山や孫山が、瘤かのように起伏しており、森や林が飛び散っていたが、春陽を受けてそれらの物象は、紫ばんだ陰影と、黄ばんだ日向とを織っていた。左はなだらかな耕地であって、ところどころに農家が立ち、鶏犬の声が聞こえていた。

そういう左右を持ちながら、長く延びている街道を、三人はしばらく黙ったままで歩いた。

「九十郎の在家存じおります」

ややあって司馬又助は云った。

十

「存じておられる! おお存じて!」

「お知らせくださりませ! さあお知らせ!」

往来であるのも打ち忘れ、範之丞と織江とは足を停め、又助が敵でもあるかのように、左右から詰め寄り忙しく訊いた。

「申しましょう、申しますとも」

こうはいったもののこの又助、津軽の浪人でありながら、南部の浪人といわでものことを、からくっていう性質であった。

ここでもからくっていい出した。

「臼杵九十郎と申すものの居場所、拙者たしかに存じおります。彼が敵でござるとなら、拙者任侠お手引きいたし、きっと敵討ちいたさせましょう。