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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

車塚異変

一

車塚異変

一

「…………」

「痛快至極に存じ申した。……お見受けいたせばご浪人、我らの意志に賛せられ、一揆にご加担くだされたく、差し出でました次第にござります」

九十郎は刀の血を、大蔵の差し出した手拭いでぬぐい、鞘に納めて黙然としていたが、

「加担いたすでござりましょうよ」

やがてポッツリとそういった。

「おおご加担くださるか。……聞かば義兄の郡兵衛も……」

「いや」と九十郎は声で抑えた。

「その郡兵衛殿、この世にいませぬ」

「…………」

無言で、驚き、胸を反らせ、いわれた意味が解らぬかのように、大蔵はむしろ茫然とした。

「この世にいぬ? この世にいぬ?」

が、ややあって、審しそうにいった。

「この世にいぬと仰せられるは?」

「割腹して果てましたよ」

「ナニ割腹? そりゃいったい? ……」

「介錯いたしたはこの拙者」

「貴殿が介錯? が、どこで?」

「古戦場の桔梗ヶ原、雨降り鬼火燃ゆる中で……」

「それにいたしても何んのために? ……割腹なんど? あの郡兵衛が?」

「何者かと技比べいたせし結果、屈折されたを恥辱とし……」

「なるほどのう」

と憮然とし、山県大蔵は首を垂れた。

「あの一本気、あの情熱では、さようなこともあったでござろう」