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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
四
「黙れ!」と冬次郎は立ち上がった。「この上申さば用捨せぬぞ! ……勘助勘助、刀をもて!」
次の間に控えていた女勘助、冬次郎の両刀を胸に抱き、襖を開けて走り出て来た。
冬次郎は刀をひっ掴み、柄に手を掛け眼を怒らせたが、
「直れ! 十二神! ……貝十郎!」
四
見て取って貝十郎は苦笑したが、懐中へ手を入れると白檀磨き、朱総の十手を引っこ抜き、膝の上へピタリと立てた。
「こう構えれば拙者は与力、幕府の役人にござります! ……たとえ名門におわそうと、殿は布衣、無位無官、拙者をお斬り遊ばしたが最後、謀反人とおなりなされましょうぞ!」
「謀反人承知! ……その舌の根!」
「殿様!」
ととたんに女勘助が、冬次郎の袖をあわてて控えた。
「あなた様にはお手の穢れ! 斬るならわたくしが斬りましょう!」
突然激しい嘲笑が、貝十郎の口から爆発した。
「お勘、アッハッハッ、女勘助、男とは見えぬ艶かさ、寛永寺の坊主など厭な眼をして、さぞ見送ることだろうな。……がそういう扮装をして、結構なお屋敷に住めるのも、この十二神が見て見ぬ振り、知って知らぬふりしているからじゃ! ……出娑婆るとみっしり喰らわせるぞ! ……殿!」