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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

三

彼女は田沼の私生活の、余りにも恐ろしい毒にあてられ、発狂をした女なのである。

彼女を捕えて調べたら、田沼の生活の表裏の仔細、ことごとく知れるに相違ない。

――と感づいたのが冬次郎で、久しい前から苦心をして、お浦を捕え手に入れようとした。

出没自在の彼女であった。

捕えることが出来なかった。

それでも今年の一月十五日に、すんでのことで手に入れようとした。

ところが十二神貝十郎のために、邪魔をされて逃げられてしまった。

爾来行方の知れなかったお浦! それが今夜あらわれたのである。

三

(織江殿には戸ヶ崎その他が、ともかくも付いて警護している。まず大丈夫といっていい。……お浦を今夜逃がしては、いつふたたび逢えるかしれない。こっちの方を……)

と冬次郎は、咄嗟の裡に思案を定め、声の来た露路へ駈け込んだ。

ここも暗く闇であった。

が、闇ながらすぐ手前を、小走って行く人影が見られた。

「待て、お浦!」

と思わず呼んだ。

これが失敗の基であった。

声をかけられて驚いたらしい、狂女特有の小猿のような敏捷、それでお浦は走り出した。

(南無三、なろうか、逃がしてなろうか!)