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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
七
あちこちの建物からは人声がし、窓からは燈火が華やかに射し、その部屋で飲食し談笑し、悪ふざけさえしている妖怪変化の――仮装の人々の姿が見えた。
と、築山の前へ出た。その裾の辺りに二人の男が、何やら声高に話していた。
「源内に平助か」云い云い意次は近寄って行った。
「お、これはご前様で」コサック風の仮装をした男――漂流者崩れと一部の人々からは、軽蔑をもって呼ばれているが、その実は漂流した経験などはなく、自分から刻苦してロシアの事情を、いろいろ調査したり、人から聞いたりして、ロシア通となった男であるところの、工藤平助はそう云って、毛皮帽の頭を恭しく下げた。「本日はお招きにあずかりまして、光栄至極に存じます」
「どうだ平助、充分飲んだか。女もいるぞ、選べ選べ」
「充分いただきましてござります……婦人の方に至りますると、この平助ちと不粋で」
「そうでもあるまい、相当であろうぞ。……もっとも『赤蝦夷風説考』などという、しちむずかしい書籍を作り、ロシアとの貿易をわしに説きつけ、いわば開国の第一声、また国防の最初の叫び、こいつを揚げたお前のことだから、固苦しいかもしれぬのう」