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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
二十
二十
それをも引っかわした九十郎、重なる事変に一時は心も、顛倒し恐怖したとはいえ、要するところ柔弱極まる、服部兄妹が現われて、親の敵と斬り込んで来た、ただそれだけに過ぎなかったので、今はかえって心悠々、いい機会だ兄妹一緒に、ここで討ち取り今後一切の、煩いをのぞこうと決心したが、いかんとも不思議に思われるのは、お吉がここへあらわれたことで――
「お吉よお吉よどうしてここへは。……高島にてのわしのやり口、薄情無残後悔している! ……どうしてここへはどうしてここへは※(感嘆符疑問符、1-8-78) ……ただしさっき方廃屋の内から、お前のよく弾いた河東節、玉菊の音色が聞こえて来たので、もしやと思いはしたものの……それにいたしても範之丞なんどと――わしを敵とつけ狙う、服部兄妹範之丞なんどと? ……」
刀上段にふり冠り、隙あったら一討ちと、範之丞と織江とへ立ち向かい、威嚇的に刀身をゆすぶりゆすぶり、今もなお大地に坐ったまま、ワナワナ顫えているお吉にいった。
お吉へ答える暇も与えず、範之丞は憤怒の声鋭く、
「黙れ痴漢! 無礼の痴漢! お吉なんどとこの婦人を、呼びすてにする無礼無礼! ……諏訪の湖畔で汝のために、斬り立てられてこの拙者、湖に落ちたを助けくれし恩人、汝に何んのかかわりもない、女芸人のお玉殿じゃ!」