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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

六

丘の上の一団は駈け下りた。

で、こうして静かになった、ここ盆地の内側に、ポッツリ点のように残ったのは、九十郎とそうして織江とであった。

六

「山県氏は真面目だのう」

枯れ草の上へゴロリと寝て、九十郎は呟いた。

「故き高阪郡兵衛殿といい、また山県大蔵殿といい、いずれも随分真面目だのう」

そう思わざるを得なかった。

あの時以来九十郎は、織江を連れて大蔵ともども、佐久の百姓一揆軍の、指揮者の一人として働いた。

働いたといっても百姓そのものの、惨苦の生活に同情して、献身的に働いたのではなく、彼らの生活に同情するごとく、振る舞い働くことによって、自分自身の生活を保証し、今日まで暮して来たのであった。

彼はかつては老中田沼に、警衛の士として仕官して、その田沼の豪奢専横、けた外れの贅沢の生活を、じきじきその眼で見たことがあった。稲荷堀の屋敷が出来あがった時、意次は中庭の泉水を見い見い、「この中へ阿蘭陀錦魚を放たば、ずいぶん見事のものであろうよ」と、ただ何気なく一言いった。と、その日柳営へ上がり、さて夕刻帰宅して見れば、高価無比の阿蘭陀錦魚が諸侯方より献上され、数百匹泉水に泳いでいた。