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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
十三
そう思わざるを得なかった。
(そんなことを思っているうち、この女は俺を殺そうとして、暇なく狙っておったのだ)
(またそれが当然でもある。親の敵であり兄の敵でもある、そういう憎い俺なのだからなア)
それだのに今日までその女と一緒に、旅をつづけ寝起きしたことが、今になっては変に想われ、あり得べからざる出来事のように思われ、危険至極だったように思われるのであった。
(俺もよほどどうかしている? ヤキが廻ったというのであろうか?)
とはいえこの女が司馬又助によって、その貞操を奪われようとした時、そうして自分と旅をつづけ、贋一揆の悪浪人どもに、無礼の所業におよばれようとした時、自分がほとんど身を挺して、助けたことを考えれば、この女がその恩を多少なりと感じ、ひょっとかするとこの自分を、愛するようになろうもしれぬと、そう考えたということが、そうまで不自然であろうとは、思われないようにも思われるのであった。
(が、それもこれもみんな俺の、思い違いというものさ。現にたった今俺の隙を狙って、復讐の刃を向けたのだからなア)
(ではこれからどうしたものだ?)
考えざるを得なかった。