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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

九

そこを素早く逃げたのは、源内とそうして平助とであった。

「平賀氏、あれは何んで、煙りでござるか、それとも何か?」

植え込みの蔭で平助がいった。

「煙りではござらぬ、白粉で。……イスパニア人がカランス殿を通して、珍しいというところから、田沼の殿様へ献上した、西班牙の捕り物の一つだそうで」

「卵の殻へ灰を入れて、目潰しとして投げるという、日本にもある捕り物の……」

「さようさよう、それと同じじゃ。ただ紅毛の品物だけに、大袈裟に精巧に出来ているまで」

「誰が投げたのでございましょうな?」

「十二神氏、あの人でござろう。いつぞやあの仁とこの拙者、その使用法を研究ましたっけ」

「何が起こったのでございましょうな?」

「さあ、どうやら誰かが誰かを、斬ろうとしたようでございますな」

不意の目潰し、濛々とした白粉、それに姿を眩まされ、互いに互いを見失い、一斉に四方へ散じたと見え、濛気が消えて晴れた後には、一人の姿も見えなかった。

戸ヶ崎熊太郎は亭の蔭にいた。

丘から遙か東へ離れ、ポッツリ建ててある支那風の亭の、背後に一人立っていた。

(殿は? 範之丞や織江殿は?)

で、じっと耳を澄ました。