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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

八

「冬次郎様」と熊太郎はいった。

「進物駕籠の中にありましたもの、どのようなものでございましたかな?」

「見せてあげよう、ちょっとお待ち」

冬次郎は立ち上がって部屋を出た。

八

間もなく冬次郎は帰って来た。

見ればその背後に年は二十歳、あるいはそれよりも若いかも知れない、武家の娘と一眼見れば知れる、清麗ではあるが艶冶ではなく、若いに似合わず着けている物に、赤色などのきわめて乏しい、年を経たならば烈女ともなろうか、真面目そうな娘を連れていた。

その娘を横に坐らせて、冬次郎は元の座へ直ったが、

「駕籠の中の主、この婦人だったよ」

いいいい癖の懐手をしたまま、熊太郎の顔を正視した。

「いいところへそなた来てくれた。この婦人を送って貰いたいものじゃ」

「送る? ははあ、どこへでござりますか?」

以前小石川の水府館へ、武術をお眼にかけるべく、お館の懇望で参上した時、このお方も座にあってはじめて眼通りしお話ししたが、その時も万事唐突に、ものをいったりものを訊ねたりして、相手の意表に出るという癖を、お持ちになっているということは、熊太郎も知ってはいたけれど、若い女を連れて来て、まだ紹介もしない先に、送って行けといわれたので、胆を潰さざるを得なかった。