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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
十三
火の雨! 火の雨!
シャンデリアが椅子に叩き壊され、無数の蝋燭が降って来た。
火焔!
燃えついた! 毛皮へ、氈へ!
「火事だ!」
「一大事!」
「お浦ヨーッ」と、これはこの時まで意外の出来事に、呆然としていた家治であった。
二人の医師は隣室へ逃げた。
つづいて家治もお浦を抱え、火を払い払い隣室へ逃げた。
すぐ火が後を追って来た。
四人は廊下へ走り出た。
すぐ火が後を追って来た。
十三
忽ち窓から吹き出す焔、って昇る黒煙り、八方へ散って乱れる火の子、阿蘭陀風の屋敷は火となった。
悲鳴、叫喚、逃げ惑う男女!
歓楽に耽っていた人々も――イスパニア風、ロシア風、支那風に造られていた屋敷屋敷で、乱痴気騒ぎをしていた人も、悲鳴をあげて走り出して来た。
消すもののない火事であった。
見る見る四方へ燃え移った。
外見も外聞もなくなって、ただ逃げよう、ただ助かろうと、他人を突き退け踏みにじり、自分もこけつまろびつする人々!
仮面を脱ぎ仮装を引き千切り、跣足になって走って行く。
二人の男がぶつかった。
二人ながら仮面を落とした。
一人は田沼主殿頭によって、大老職に引き立てられたが、完全に木偶にされているところの、彦根中将井伊直幸であり、もう一人は茶坊主の珍阿弥であった。